2006年10月号にこの『エコール』の監督のインタビューが載っていたんです。映画の宣伝で人形作家さんとコラボしていて、写真もいっしょに載っていて。
季刊Sで覚えている記事といったら、この『エコール』くらいかもしれない。それくらいその写真に引きつけられたんですよね。ほんの数ページのインタビューだったんですが、写真で見た映画のシーンの情景がすごく良くて。
あれから18年……。満を持して観ました。おもしろかった。いや、意外なほどおもしろかった。
ベルギー、フランス、イギリス合作のこの映画、わたしが普段観ているアメリカ映画とはまったく違っていて、すごく新鮮だった。
派手なことは何も起こらない。事件もない。ただただ、静かに淡々と少女たちが画面に映される。
冷静になって「わたしは何を見せられているんだ?」となりそうなものなのに、あと一歩のバランスでそうならない。
とてもつまらなく感じそうな内容なのに、休憩も挟まず全編通して観ることができた。派手なアクション中でもつまらなければ映画を中断してショート動画をダラダラ観ることもたくさんあるわたしなのに……。
この映画を観終わった瞬間、まるで卵みたいな映画だな、と思いました。卵の殻の中をひとまわりしたような。光に透ける卵のなかで、漂いながら殻の中の世界を見ている。殻の外の光を垣間見ても、それはまた元の世界に戻っていく。
いや、よく考えてみると、卵というより羊水の中にいるような……。子宮の中でまどろんでいるような、そんな印象を受けた。
この映画の見所といったら、ひそやかなほのめかしを少し見せて、あとは少女たちが不器用に跳んだり跳ねたりしているだけなんです。なのになぜ、こんなに引きつけられるんだろう……。
不思議な映画だ。暗い雰囲気でもない、でも明るくもない、少女たちの素のままの姿をじっと目を凝らして映している、それだけの映画なのに、どうしてこんなに心に残るんだろう。
少女たちは饒舌ではない。囁くように声を交わし合い、光の中で遊び、教室でバレエのレッスンを受ける。たまに脱走者が出るけれど、ひそやかに葬られ、忘れ去られる。
ふたりの謎めいた女性、エヴァとエディスには秘密の香りが濃密に漂っている。いくらでも物語を想像できそうな余地がある。でもそれをつまびらかにするでもない。
ともすると、この映画を観ていた究極の目的は、スラリと伸びたビアンカの足を見るためだったのかもしれないと思ったりもする。少女たちが微笑み合い、水遊びをしている姿を見られただけで、満足感が胸に去来する。
少女たちの一瞬一瞬の姿を見ていると、原題の『イノセンス』という言葉が何度も頭に浮かぶ。イノセンスを失ったであろうエヴァとエディスとの対比で、それはさらに際立つ。
この映画についてなら、いくらでも語れそうな気がする。足を引きずるエディス、いつも悲しげなエヴァ、使用人の老婆たち。舞台を観劇に来ている客、外の世界、そもそもあの学校はなんなのか……。
でも、そういう謎よりも、わたしはブランコから落ちたビアンカの姿がずっとずっと心に残っている。
色とりどりのリボン、白い制服、三つ編みの少女たちの姿は、わたしの心の原風景のひとつになった。
いやはや、驚くほどいい映画だった……。
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