2023/12/08

#1002 恩田陸『蜜蜂と遠雷』感想

すごく、すごく、すごく、よかった。

たぶん50mlくらい涙でました。キッチンに行って計りで50mlがどれくらいのものか見てみてください。それがわたしの感動の量です。


いえ、すみません。いまキッチンに行って50ml計ってみたのですが、さすがに涙の量にしては多すぎました。20mlです。20mlの涙が出たんですよ? 体感で。わたしがどのくらい感動したか、だいたいわかると思います。


わたしは基本的に本は図書館で借りて読みます。なので、予約がいっぱい入っている人気の本はなかなか読めないんです。今回はたまたま運が良くて本棚に並んでいるのを見つけて借りました。次に予約が入ってるみたいだったので、急いで読まなくちゃなあと思って読み始めたんですね。


二段組だしすごい分厚いな、返却日までに読めるかな、と心配したのですが杞憂でした。読み始めると止まらない。


読み始めて二日目、家に工事の人が来て作業してたのですが、その横で涙を流しながら一心に読みました。作業が終わって声をかけられた時、ちょうど風間塵の演奏中で無心で読んでいたのでびっくりしました。そういえば人いたな、と思い出しました。普段は人がいるとなかなか集中できないのに……。


工事の人に「時間が長くなってすみません」と言われて気付いたのですが、最初は40分くらいで終わると言われていた作業が二時間くらいになっていました。それくらい集中して読めたんです。


おもしろかった……。


コンクールの日程をその場で経験したような気持ち。


音楽をその場で聴いているような気持ち。


主人公たちと共に音楽を経験したような気持ち。


読み終わったあと、図書館に出かけました。apple musicで「蜜蜂と遠雷」を検索して、そのプレイリストをイヤフォンで聴きながら電車にゆられました。


ひさしぶりにきちんとクラシックを聴きました。演奏する前の亜夜のように、虚空を見つめて音楽を聴きました。


趣味で書いている小説に音楽家が出てくるので、素人ながら小説で音楽の描写をやったことがあり、そのときにクラシックをよく聴いていました。


音楽への賛美。限りない賞賛。憧れと陶酔。わたしが書いたのはそれくらいでしたが、『蜜蜂と遠雷』には暗い側面も克明に描かれていましたね。


ふと思ったのですが、恩田陸は音楽に対して「愛している」という言葉を使わなかったような……。(もし使っていたら教えてください)


「愛している」という気持ちを、「愛している」という言葉を使わずに書き切ったんだな。


溢れ出る愛を、言葉を尽くして表現した。


ある詩人の言葉に、「音楽とは、言葉を探している愛である」というものがある。


恩田陸は小説家として、言葉によって音楽を聴かせて、音楽によって引き起こされる感動を喚起させたんだ。


すごいことだよ、これは……。


どれくらい取材したんだろう。どれくらい資料を読んだんだろう。どれくらい勉強したんだろう。もしかしたら、ピアノを習ったのかな。インタビューがもしあったら、読む機会があれば読んでみたいなあ。


タイトルの『蜜蜂と遠雷』に関して。


蜜蜂の羽音は、風間塵にとって今聴こえている音楽そのものの音。亜夜にとっての雨音のギャロップ。


じゃあ遠雷は? と考えたとき。


それは、予感だと思う。嵐の予感。未来の風間塵やマサルや亜夜が弾く音。音楽が箱の中から連れ出され、空で鳴り響く音。神が鳴る音なんだと思う。


いまは遠く、空の彼方で鳴っている神鳴り。


遠雷。その音は、いずれ時がきたら、風間塵のアレンジやマサルの新曲や亜夜のコンサートで鳴り響くんだろうな。


というわけで、すばらしい小説でした。


世事に疎いわたしでも発売当初、世間が熱狂していたのを知っているくらい有名な本だけど、その理由がわかりました。


欲しい。本棚に欲しい一冊……。買っちゃおうかな? でもその前に、買うなら『ドミノ』かなあ。いやいや、『黒と茶の幻想』も捨てがたい。でももし『黒と茶の幻想』を買うなら、『三月は深き紅の淵を』も並べたい。それならいっそ理瀬シリーズを揃えたい……となってしまうので、購入は要検討。


恩田陸はミステリ作家ときどきオカルトサスペンスという印象だけど、たまに出す青春ものが大ヒットするよね。『夜のピクニック』のことですが。


『蜜蜂と遠雷』作中で、演奏家がやりたい曲とうまく弾ける曲が一致しないという趣旨のことが書かれていたけど、恩田陸にも当てはまるのかな。


そういう点でいうと、作中にもあった通りミステリ作家と音楽家って似ているなあ。


憧れる……わたしもミステリ作家や音楽家になってみたい。


そういえばわたしもピアノを習った時期がありました。礼拝でオルガンを弾いている時期もありました。


だからといって『蜜蜂と遠雷』にでてきた天才たちの気持ちがわかるというわけではないですが……。


こういう自分の記憶を呼び起こされて、憧れを募らせる小説っていいですよね。


いやあ、いい小説を読んだ。


何年後に思い出しても素敵な、大切な記憶になりそうです。

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