2023/12/08

#1005 ポール・オースター『鍵のかかった部屋』感想

 わたしの好きな外国作家三位なのに、好きすぎてなかなか読めないポール・オースター。

なかなか読めない理由は、彼の小説の空気を呼吸できる自分になれるときが少ないからでもあります。


透徹した孤独。極限まで追い詰められる自我。その恐ろしさに耐えられるときに読まないと、打ちのめされてしまいます。


一作目の『ガラスの街』で自分の心を粉々にされ、それから畏怖をもって接してきた作家です。


〈ニューヨーク三部作〉『ガラスの街』『幽霊たち』、そして『鍵のかかった部屋』。これらの本に共通しているのは、たしかに読んだはずなのに、内容をほとんど覚えていないんですよね。


わたしの記憶力の問題もあるかもしれませんが、それだけではありません。


文章に魅せられて最後まで息を切らして読み切ったはずなのに、振り返ってみると何もない。ただ、切れ切れのシーンの断片がちらりとよぎるだけ。圧倒的な空虚感だけが残り、その記憶を頼りにまた次の本へよろよろと歩いていく。


内容だけでなく、読後感までポール・オースター。


彼の本について語ることはほぼありません。


ただ読むだけです。


ただ心配なのが、現時点で読んでいるのが彼の初期の作品にあたること。


これから年代をくだるにつれ、彼の作品がどう変化していくのか、あるいは変化しないのか。


比較的最近の『幻影の書』も読んだけど、例によって内容を覚えていないのでポール・オースターがどうなったのかわからない。


というか、『幻影の書』に関する記憶がほぼない……。大抵の本は、いつどこで借りたか本棚の位置で覚えているのに、この本に関しては記憶がない。


まさか。


もしこの読後感が本の内容に関連しているとすれば、ポール・オースターの小説の主人公は、自我が粉々になるだけでなく、完全に消え去ってしまったということだろうか。


いま調べてみたところ、2018年の3月に読了しているので、単純に年月の問題かもしれない。


けれど、それよりずっと前の2012年10月に読んだ『ガラスの街』を覚えているのだから、それだけ記憶がすっぽり抜けているのはおかしいか……。


なんだか探偵小説のようになってきましたね。


果たして犯人は消えてしまったのか?


……そもそも、探偵はいたのだろうか?

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