どれも本当にあったことのように細部まで緻密に(緻密すぎるほどに)描写されるのに、徐々に現実味を失っていく。
フランクリンの描くアニメーションは描けば描くほどに突き詰められて細緻になるのに、どんどん幻想じみていく。
王妃をめぐる物語は登場人物の心情の機微が微妙になって複雑になっていくのに、どんどん寓話的になっていく。
ムーラッシュの描く絵画は晩年の作品になるごとにどんどん想像を超えてイマジネーションの影のようになってしまう。
芸術の極致とその崩壊。ミルハウザーがくりかえし小説で描くこのテーマ、どうしようもなく好きなんですよねえ。
オブセッションっていうのかな、そういうのがある作家が好きなんです。
村上春樹でいえば「井戸」とか「穴」。押井守でいえば「鳥」とか「バセットハウンド」。
ミルハウザーも「緻密さが極まってそれが極致に達したとき、崩壊する」という同じ型を使って何度も小説を書いていますよね。
『マーティン・ドレスラーの夢』とか『ナイフ投げ師』のなかの数篇とか。
あとミルハウザーは「伝記もの」がありますね。『エドウィン・マルハウス』とかね。
まるで記憶のなかのシーンをそのまま見て、そのままひとつひとつを省略することなく描写していくような書き方。
ひとつひとつ羅列していくようなやり方、すぐに飽きてしまいそうだけどミルハウザーだけはまるで魔法がかかっているようにそれがおもしろい。
稀有な作家だよなあ……。
次は『バーナム博物館』を読みます。
たのしみ!
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