クルツの臨終の言葉、"The horror! The horror!"「地獄だ! 地獄だ!」の箇所と、マーロウが死との格闘について語る箇所。
アフリカという闇の奥にずぶずぶとはまり込んでいったマーロウの語り。具体的なことを描写しているかと思えばよくわからないことを言い出す。記憶のもつれのようにつかみどころがない印象を持つ。
霧を掴むような印象といっしょに、アフリカのウィルダネスと叢林にうごめく現地人があざやかに眼前に映し出される。
語り口は雄弁なのに、わたしたちがそこから得られるものは少ない。まるで儲けを期待してアフリカへ赴いたマーロウがほとんど何も得られなかったのと同じように。
マーロウがヨーロッパ世界に持ち帰れたものは、象牙でも金でもなくただ記憶だけだった。アフリカの自然、さまざまな思惑で動く悪魔のような人間、クルツ、そして死の記憶。
クルツという謎の男を中心に物語は動いていくけれど、わたしがクルツについて知っていることは少ない。作中で何度も言及されたクルツの「声」、これを実際に聞かないことには、クルツのことを知ることはできないんだろうな。
クルツが死んだ後も、マーロウはクルツに忠実な男として、彼の記憶を折に触れて人に話すんだろう。だけどクルツの声を聞くものがもういない以上、それは虚しい徒労に過ぎない。
死と格闘しているんだ、マーロウは。生と死を隔てる境界を越えなかった者、その一歩手前まで行って引き返した者として、彼は死を語らずにはいられない。なぜならそれは逃れられない恐怖(The horror)だから。
なにはともあれ、おもしろかった。いろいろな読み方ができる小説だね。
0 件のコメント:
コメントを投稿