※ネタバレあります。
そうだね、なんか児童書というより映画みたいな本だったね。実際映画化されてディズニー+で2020年に配信されたそうだけど、今は配信されてないみたい……。ちょっと観たかったな。
臭いセリフが多くてちょっと食傷気味になっちゃったけど、作者がアメコミファンみたいなのでそこから影響受けているんだろうな。
ここで言う臭いセリフというのは、まず悪態の多用。あと相手を貶し馬鹿にする言葉を小粋で捻った表現にするという意味です。
いや、それ自体はいいんですよ? なんなら好きだし。だけど、この本に限っては、作者のセンスのきらめきをあまり感じなかった。
たぶんそういう言い回しは子どもに受けるんだろうなと思うのですが、わたしはちょっと鼻についたな……。
なんで気に入らなかったかというと、キャラクターに善性が感じられなかったから。厳密にいうと多少は感じましたが、十分ではなかった。
わたしが児童書に期待するのは、善に基づいていること。たとえ現実の世界がどんなに複雑で邪悪で不可解であっても、児童書の世界だけは善が基盤になっていてほしい。
せめて児童書という虚構の世界でだけは、善がすべてのはじまりでありおわりであってほしい。
このわたしの求める基準に照らすと、『アルテミス・ファウル』は十分な満足をわたしに与えてくれなかった。
もちろん話の筋としてはおもしろいし興味深く最後まで読んだ。だけど心から登場人物を応援し感情移入するまでには至らなかったな……。
それなりに登場人物たちは良い面もあったのに、どうしてちょっとひっかかるんだろ? 根は良いやつだけど、普段の言動が受け付けなかったのかな。
なんか心理的距離を感じるんだよなあ。優しさや弱さの開示があまりなかったからかな。
そしてちょっと惜しかったのが、アルテミスたちが生物爆弾から逃れた方法。あれじゃ説得力が弱いでしょ……。
アルテミスの天才性をあれだけ煽っておいて、その方法? 期待していた分、ちょっと肩透かしを食らった気分。
まあ、お母さんが眠っていることが伏線になっていたなら、そうするしかないけどさあ……。お母さん周りの伏線は、もっとわかりやすく提示してほしかったな。
ホリーがお母さんのうつ病と狂気を癒したけど、妖精のヒーリングは精神の病気にも効くのか、というのもモヤリポイントだった。
お母さんの場合、器質的な病気ではなく心理的なものだったんじゃないっけ? お父さんがいなくなったから寝込んでたんだよね? 心の傷を癒してしまったということ……?
ふうむ。なんかカタルシスがあまり感じられないなあ。きちんと筋は通っているし倫理観もそれなりにある。だけど感動はしないなあ。よくできた物語だな、と感心はするけど。
たぶんわたしが求めているのって「心から仲間を大切に思っていて仲間のためなら命を投げ出す」という行動や心理なんだと思う。
アルテミスはそういう点ではクールじゃないですか。バトラーが危険に陥ってもそれをカメラで見ているだけだし。
バトラーは妹を守るために命をかけたけど、当の妹が兄を大切に思っているようには見えない。ただのチャランポランに見える。
出番と口数が多いルートとフォーリーも、口ではホリーを心配してできることはするけど、軍人らしい冷酷さがあるし、ホリーのために規則を破ることはしない。
ホリーは一貫して正義感があるんだけど、なんかちょっと影薄くない? 作品のヒロインなのにあんまり印象がない……。印象に残っているのはルートとフォーリーの小気味いい掛け合いの方かも。
そう、この本で作者が楽しんで書いてるなあ筆がのってるなあと感じる箇所は、男同士の気安い会話だと思うんですよね。隊員同士の会話とかね。
なんか作者がアメコミ好き(とくにバットマン)というのが影響している気がするなあ。アメコミって基本的に男同士の物語で、女は添え物って感じじゃないですか。
この本にでてくる女性キャラも、上っ面をなぞっているだけというか、リアルじゃないというか……。
アルテミスはやりようによってはめちゃくちゃわたしに刺さりそうなのに、いまいちぶっ飛ばされなかった……。魅力で思いっきりぶん殴ってほしいのに……。
なんか妖精側が主人公感ありましたね。アルテミスにはダーク・ヒーローらしく突き抜けてほしかったのに、いまいち決定打に欠けている。
なにはともあれ、ちょっと惜しいところがちょこちょこある作品ではありますが、結局は個人の好みなのでね……。
続編読もうかな、どうしようかな。アルテミスの魅力をもっと見つけたいし、読むかな……。
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