今まで読んだミルハウザー作品とはちょっと違う雰囲気の短編がいくつかあって、それがなかなか手強かった。
いや、正直にいうといくつかの作品がなんとも読み辛くて、読み終わるのに時間がかかってしまった。
ミルハウザーらしいといえばらしい作品なんだけど、実験的な要素が強かった気がする。どの小説でもそうですが、実験的な作品って興味深くはあるんだけど読みにくいんだよな……。
特に苦労したのが「探偵ゲーム」。これを読むのが大変だった……。日本人には馴染みのないゲームだから想像がつきにくいというのもひとつの理由だとは思うけど。
どうやら原書では担当編集者の思い入れが強いゲームだったらしくて、これが短編集のトップだったそうだ。それって大丈夫だろうか? トップにもってくるにはアクが強すぎやしないか。
誤解を恐れずにいうと、原書の短編の順番には首を傾げる。だって「バーナム博物館」のあとに「セピア色の絵葉書」って。「幻影師、アイゼンハイム」のまえに「ロバート・ヘレンディーンの発明」って。
短編の順番ってその短編集の印象を左右する重要な要素ではないですか。なんか原書はチグハグなイメージが拭えないんだけど……まあわたし個人の感想なのでね。
日本の短編の順番は大満足。
- 「シンバッド第八の航海」
- 「ロバート・ヘレンディーンの発明」
- 「アリスは、落ちながら」
- 「青いカーテンの向こうで」
- 「探偵ゲーム」
- 「セピア色の絵葉書」
- 「バーナム博物館」
- 「クラシック・コミックス #1」
- 「雨」
- 「幻影師、アイゼンハイム」
うん。何度見てもこれ以上変えられないくらい素晴らしい順番だと思う。美しい波に揺られるようにミルハウザーの世界を堪能できる。
訳者の柴田元幸が著者に許可を得て変えたそうだ。訳者あとがきを読むたびにしみじみ思うけど、本当に柴田元幸が訳者でよかった。柴田元幸が訳してなかったらこんなに好きにはならなかったかもしれない。
それにしても、この短編集で出色の出来栄えはなんといっても「幻影師、アイゼンハイム」だ。最後を飾るこの作品まで辿り着くのに本当に苦労したけど、読んだ甲斐があった。
これぞミルハウザー。もう何も言うことはない。すべてはわたしの記憶に刻まれている。
Wikipediaを読んでみたらなんと映画化していた。しかもエドワード・ノートン主演で。ノートン好きだけど、アイゼンハイムって感じではないな。あの天才性でイメージの差異をねじ伏せるのだろうか。
いやはや……「幻影師、アイゼンハイム」がすごすぎて、他の作品の影が薄れてしまった。他の作品も良かったんだけど、最後に全部アイゼンハイムに吹っ飛ばされた。
すごいよ。本当に……。もう沈黙するしかない。黙って次のミルハウザー作品を読もう。
ミルハウザー作品は基本的に日本での刊行順に読んでいるんだけど、それぞれの作品が書かれた順番がめちゃくちゃ気になる。せめて本国での刊行順を知りたい。いつか気が向いたら調べよう。
次は『木に登る王:三つの中篇小説』か。以前読んだ『三つの小さな王国』がおもしろかったから期待大。
ミルハウザー作品は貴重だから大切に読んでいこう。
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