2024/08/11

映画『ミッドサマー』感想

ミッドサマー』、数年前に通常版とディレクターズカット版を観たのですが、記録してなかった……。いつ観たんだろ? とりあえず今回は通常版を観たあとにディレクターズカット版で追加されたシーンだけ観ました。

普段は考察サイトとか読まないのですが、今回ばかりはいくつか読みました。監督のインタビューもいくつか。それでいろいろと面白いことがわかってミッドサマーがますます好きになった。

まず、この映画はアリ・アスター監督の失恋の経験を投影したとても個人的な映画らしい。そう思って観ると、この映画は恋人への復讐の映画に見えてくる。

失恋したら恋人からもらったものを燃やすっていう儀式を女の子たちがやっているのを洋ドラマでよく見ますよね。アリ・アスターはそんな可愛いものじゃなくて、熊の生皮を着せたうえで生きたまま焼き殺すんですよ。その失恋が彼にとってどれほど残酷な経験だったかが窺えますね。

あと、新たな発見だったのが、ダニーがホルガ村の出身だったこと。考察サイトで言われていたことなんだけど。村に入って挨拶をされたとき、ダニーにだけ「Welcome home」って言われてたんですね。

メイクイーンの写真がたくさん壁にかかっているシーンで、わたしはここにダニーの母親の写真があるんじゃないかと思って血眼になって探したんですが、上段左から四番目の写真、ちょっとダニーの母親に似ていませんか……? 気のせいか……。

ダニーの父親と母親は生まれたばかりのダニーを連れて村を出ていき、アメリカに渡って暮らしていたんでしょうね。そして、村の人間に殺された。なぜなら、あの村で一番罪深いことは「裏切り」だから。

なぜ一番の罪悪が「裏切り」なのかというと、村を出ていったダニーの両親に対する仕打ちを見たらわかりますよね。両親を殺すだけではなく、妹まで残虐なやり方で殺している。

妹が両親と心中したと見せかけるための偽装工作でああいうやり方をしたんでしょうが……薬で動けなくしてガスで殺すなんて……。妹はアメリカで生まれたから村の者ではないという認識なんでしょうね。村の外の人間を殺すことに罪悪感は微塵もない。

熊の生皮を着せられて小屋に設置されたクリスチャンに祈祷師?が言いますよね。「お前により最も罪深い感情を浄化する」「自分の邪悪さを省みるがよい」と。観たあとでずいぶん考えました。クリスチャンはなぜあそこまで残酷に殺されなければならなかったのか? 彼の罪は何か?

その答えは、クリスチャンがダニーを裏切ったから。一番罪深い「裏切り」行為をして、それをダニーは許すことができなかった。だからダニーは彼を選び、彼は殺された。

アリ・アスターの元恋人……相当恨まれていますね。アリ・アスターは恋人に裏切られたと感じて、その恋人の仕打ちに対する壮大な復讐をこの映画に映し出そうとしたのかも。

彼は想像のなかで元恋人の肺を生きたまま取り出し、全身の皮を剥ぎ、土に埋め、石をくくりつけて川に投げ、熊の皮を着せて焼き殺す。アリ・アスターの怨恨って根深いですよね……。だがそこがいい。そういう個人的なオブセッションを見たいんだわたしは。

通常版とディレクターズカット版、やっぱりディレクターズカット版を観た方がいいですね。ディレクターズカット版を観ると、ホルガ村へ向かうドライブ中の会話で、ペレがずっと前から周到にクリスチャンたちを誘導してホルガ村に来るように仕向けていることがわかる。それとディレクターズカット版の方がクリスチャンがクズなのがよくわかる。

一番最初に絵が出てくるじゃないですか。クリスチャンがダニーを慰めているんですけど、手を後ろに隠しているんです。よく見えないけど、たぶん指をクロスさせているんじゃないかな。海外の人が嘘をつくときにする仕草です。クリスチャンは根っからの嘘吐きなんでしょうね。

あ、でもなあ。上品さがあるのはだんぜん通常版だな……。ディレクターズカット版はどうしても冗長になるというか、裏側がより見えてくるので含みを持たせられない故の下品さが滲んでしまうというか……。通常版の方がより意味深で理不尽で、それはそれでいいかもしれない。

初めて観たときは、あの村が理想郷に見えました。堅固な共同体のなかで分かち難いほど結託し、純血主義を尊び、自由を享受し、死をも受け入れる。

だけど「裏切り」が一番の罪悪だとしたら、それはディストピアですよね。だけどホルガ村を拒絶していたダニーも最後には狂気に呑まれディストピアがユートピアになってしまった。

カタルシスを感じると同時に、なんともいえない後味の悪さもある。アリ・アスターの持ち味ですね。クセになるわあ……。

インタビューによると、『ボーはおそれている』の他にも映画を作っているみたいなんだよな。新作が楽しみすぎる。期待して待ちます。

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