名作のひとつの指標って、「自分の人生を描いている作品だと感じる」ことだと思うんです。この映画は、たくさんの人の人生の一場面を思い起こさせたんじゃないかな。
途中で何度視聴をやめようと思ったことか……。自分の個人的な人生を想起させる場面が多くてちょっと辛くなったし、クリスティンのパーソナリティが生々しくて見ていられなくて……。それだけ描写力がすごいということですよ。
リアル。すごくリアルなんです。生身の人間としてのクリスティンの生活を垣間見ているような。真に迫っている。レディ・バードと名乗るクリスティンは決して平凡な人間じゃない。なのに、平凡なわたしと重なる部分がたくさんあると感じる。
それと同時に、エキセントリックなレディ・バードの冴えない青春に魅せられる。講演会ではっきりと自分の考えを言い、馬鹿げた嘘をつき、犯罪スレスレのいたずらもする。親を騙してでも自分の望みを叶えようとする。
最初はなんて性格の悪い子なんだ……とちょっと引いてたんだけど、最後にはちょっと好きになってた。大好きにはなれなかった。それって自分自身への評価に似ている。わたしは自分のことを大好きとは言えない、だけど多少好きになれる部分もある。そんなかんじ。
お母さんの描写もすごくて……。わたしの母親もああいうところあるわ……。ちょっとここらへんは地雷なので心の防衛機制が働いているのか、感想が出てこない。だけどすごいよ、あの母親像を描き出したのは。
スタインベックの『怒りの葡萄』のテープを二人で涙を流して聴いて、次の瞬間には喧嘩してレディ・バードは車から飛び降りるんだもん。このオープニングが二人の関係を象徴しているよね。
母親と娘の共依存的な関係。仲が悪いのに一緒に服を買いに行くのとかまさにそう。ちょっと気持ち悪いくらい母娘の関係を正確に描写している。
母親に対する憎しみと愛情が混在しているクリスティン、何も知らないで自分のことばかり考えているクリスティン、自分の意思を貫き通して進学し、泥酔して搬送された朝に、心細くなって家に電話して不安そうに辺りを見回すクリスティン……。
揺れ動く青春の自意識をこれだけ克明に映し出して露悪的にならないのは監督の手腕かな。女性監督らしいんだけど、女性だからこそ描けたのかもしれない、この映画は。高ぶりすぎず、落ち込みすぎず、没入しすぎず、だけど引きつけられる。このバランスと距離感がすごく上手い。
友人、彼氏、先生、家族、それぞれの関係性……サクラメントの狭い世界で生きているレディ・バードの生活を映し出したこの映画のなかに、必ずどこかに観た人の心に刺さるものがあると思う。
いやはや、小品ではあるものの、とても心に残る映画でした。ひさしぶりに絶賛しちゃった。途中で辛くて観るのやめようかと思ったけど、最後まで観てよかった。
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