この本、序盤のつまらない(ごめんね)箇所を乗り越えると終盤に怒涛のおもしろさを味わえる。読み始めた時は読んだばかりの『薔薇の名前』と比べてしまって「え……つまらな……?」と思ってしまった。それはまったくの間違いだったわけだ。
一度読み始めたら必ず最後まで読み切ると自分で決めているので、心が折れそうになりながらも読み進めてよかった。この決め事のせいでひどい本を斜め読みする羽目になったこともあったけど、おおむねこの信念に従っておいて間違いはないようだ。
なぜつまらないと感じてしまったかというと、風景描写が微に入り細を穿つものだったから。不必要なまでに写実的で、くどく感じてしまった。なぜそこまで著者が描写に力を入れたかというと、実際に著者が子どもの頃に住んでいた家の裏に庭園があり、その庭園をそのまま物語に映し出したかららしい。
正直にいうと、わたしはそこまでトムにも思い入れを感じなくて、それというのもトムという男の子がリアルすぎて、現実の男の子と同じ距離感を感じてしまったから。心の機微も行動も等身大の男の子っぽくて、わたしと違う子だと思ってしまった。良いことなんですけどね、小説の主人公が現実に生きている男の子みたいだというのは。
なんだか、この小説でわたしがあまり気に入らなかったところは現実を忠実に再現している部分ですね。わたしがどれだけファンタジーにかぶれているかわかるな笑。
ハティが出てきてからが、この本のはじまりだったな。トムとハティが孤独な子ども同士の親交をあたためあうシーンは楽しく、そして切なくもあり……。物語が進むにつれ、ハティの悲しい境遇がわかってきて、さらに切なさを味わい……。
トムは毎晩訪れているのに、ハティにとっては数か月に一度しか会えない友達だったことが分かったときが一等悲しかった。トムが来なくても、ハティは庭園で遊び続けていたんだ。たったひとりで……。
ハティがどんどん大人になっていくのも切なかった。怖いおばさんに怯えながら少女時代を過ごしたんだ。一人遊びが板について、たとえ新しくできた友人といても、自然とひとりになってしまうハティ。そんなハティの遊び相手になったトムがどれだけハティの救いになったことか……。
ハティが少女から大人の女性に成長していくのに、トムだけはいつまでもパジャマで裸足の小さい男の子という構図が嬉しいような悲しいような、複雑な感情を抱きました。トムが子どもの素直さで庭園に永遠を求めているのに、ハティは結婚して庭園と別れるのも対比がきいてますよね。
そしてバーソロミュー夫人がねえ……。最後に最初と繋がって、あれはそういうことだったのか……! ってなるのが最高でしたね。いやはや、よかったです。
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