読んだことのない作家、特に女性作家の作品が読みたくて、いろいろ迷った末に選んだのが柳美里の『家族シネマ』でした。
柳美里を読むのはこの本がはじめて。なぜ今まで読まなかったかというと、柳美里って虐待が報道されたことがありましたよね。それで読むのをやめました。
報道が具体的にどういう内容だったか、虐待が本当にあったのか、今となってはわかりませんが、その記憶が薄れていたので手に取ったというのが正直なところです。
わたしは好きな作家ばかり読んで新しい作家をなかなか開拓しないし、したとしても気に入ることはほとんどありません。柳美里も、心から好きになれたとは言えない……。
でも、読みごたえはありました。特に表題作で芥川賞もとった『家族シネマ』は静かな気迫があった。
家族という人間の集まりの醜さ、煩わしさを淡々と映している。そして壊れた家族で生きてきた者の歪(ひずみ)が性の乱れとして表出することへの諦め。自分を大切にすることができない人間の悲しい性(さが)。
わたしも家族とは醜く煩わしいと思っていた時期があったし、自分を破壊するために性を徒に振りかざしたこともあるし、自分を大切にできなかった。
でも、そんなわたしがこの本を読んだからといって何も変わることはなかった。共感もしない、救いもない、怒りもない。でも悲観的ではない。そして爽快感もない。
でも、それが心地いい気がする。ほっといてくれる安心感。ただ情景を見るだけで、心かき乱されることもなく通り過ぎていく。
助けが必要なわけではない、救いを求めているわけでもない、浄化も昇華もどうでもいい。そういう心境にとって、この小説の距離感はなかなかいい。
柳美里の他の作品を読むかどうかは……ちょっとわからない。他にも読んだことのない作家を読んでみてから決めよう。
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