なにはともあれ
本、映画等の感想ブログ。 ネタバレ注意。
2024/11/10
あさのあつこ『バッテリー』感想
2024/11/05
ウルフ『ダロウェイ夫人』感想
魂は困難も混乱もなく、いくつもの場所に存在し、観察し、そこで行動できる。それから、焦点を定めるだけでひとつの場所に戻り、自分と「再合体」する。
上記について信じるか信じないかはおいといて、ウルフの視点はまるでここに記述した死後の霊のように自在に、自由に、生き生きと存在している。
六月の美しいロンドンで、まるで自分も生を謳歌しているように感じたし、同時に死の冷たい肌触りも感じた。さまざまな人生が入れ替わり立ち替わり目の前に翻り、確かな感触を残して遠のいていった。
びっくりしたのが、クラリッサやピーターの年齢が五十歳を過ぎていたこと。あんなに瑞々しい感性を持ったままその歳まで生きられるんだろうか?
そしてこれまた驚いたのが、ヴァージニア・ウルフって100年も前の人だったの? てっきり現代の人だと思い込んでいた。うう、わたしの無知さが恥ずかしい……。
でも、でも、あの文章を読んで、100年前の人だとは思わないじゃん……。斬新で新奇で、挑戦的で美しい、はじめて読む文章なんだから……。天才は時代とか関係ないんだなあ。
この本、いま思い返すと読むのにけっこう苦労したんですけど、読み終わってみると、もう一度最初から読み返したくなる。読み終わってすぐにこんな気持ちになることは滅多にないんですが……。
映画を同時に何本も観た気分。クラリッサの映画、ピーターの映画、セプティマスの映画、レーツィアの映画、キルマンの映画、サリーの映画……その他大勢の、それぞれが主役の映画。こま切れだけど鮮やかな人生のワンシーンが同時に頭に流れ込んでくる。
こんなに豊かで軽やかな読書体験を今までしたことがあったかな? いや、おそらく、こんな芸当はヴァージニア・ウルフにしかできない。
他の作品も必ず読むだろうけど、しばらくはいいかな……。この余韻に浸っていたい。『ダロウェイ夫人』の世界だけを知っていたい。
なにはともあれ、ひさしぶりに痺れた読書でした。
2024/11/03
千早茜『魚神』感想
2024/11/01
早川茉莉編『なんたってドーナツ』感想
川上弘美『竜宮』感想
2024/10/31
『ベスト本格ミステリ2012』感想
2024/10/22
柳美里『家族シネマ』感想
読んだことのない作家、特に女性作家の作品が読みたくて、いろいろ迷った末に選んだのが柳美里の『家族シネマ』でした。
柳美里を読むのはこの本がはじめて。なぜ今まで読まなかったかというと、柳美里って虐待が報道されたことがありましたよね。それで読むのをやめました。
報道が具体的にどういう内容だったか、虐待が本当にあったのか、今となってはわかりませんが、その記憶が薄れていたので手に取ったというのが正直なところです。
わたしは好きな作家ばかり読んで新しい作家をなかなか開拓しないし、したとしても気に入ることはほとんどありません。柳美里も、心から好きになれたとは言えない……。
でも、読みごたえはありました。特に表題作で芥川賞もとった『家族シネマ』は静かな気迫があった。
家族という人間の集まりの醜さ、煩わしさを淡々と映している。そして壊れた家族で生きてきた者の歪(ひずみ)が性の乱れとして表出することへの諦め。自分を大切にすることができない人間の悲しい性(さが)。
わたしも家族とは醜く煩わしいと思っていた時期があったし、自分を破壊するために性を徒に振りかざしたこともあるし、自分を大切にできなかった。
でも、そんなわたしがこの本を読んだからといって何も変わることはなかった。共感もしない、救いもない、怒りもない。でも悲観的ではない。そして爽快感もない。
でも、それが心地いい気がする。ほっといてくれる安心感。ただ情景を見るだけで、心かき乱されることもなく通り過ぎていく。
助けが必要なわけではない、救いを求めているわけでもない、浄化も昇華もどうでもいい。そういう心境にとって、この小説の距離感はなかなかいい。
柳美里の他の作品を読むかどうかは……ちょっとわからない。他にも読んだことのない作家を読んでみてから決めよう。
あさのあつこ『バッテリー』感想
ここ数日間、本当に『 バッテリー 』のことしか考えてなかった。一日に一冊、時に二冊読んでいて、さっきⅥの完結編を読み終わったのですが、この、行き場のない気持ちをどうすればいいのか、わからない。 感想ブログなんてものをしているわたしだけど、実は読んでも感想を書かない場合もあって。 ...
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