2024/04/23

オーエン・コルファー『アルテミス・ファウル 妖精の身代金』感想

※ネタバレあります。

児童向けファンタジー小説なのに、スパイ映画みたいなテクノロジーがわんさか出てきて目新しさがあった。

そうだね、なんか児童書というより映画みたいな本だったね。実際映画化されてディズニー+で2020年に配信されたそうだけど、今は配信されてないみたい……。ちょっと観たかったな。

臭いセリフが多くてちょっと食傷気味になっちゃったけど、作者がアメコミファンみたいなのでそこから影響受けているんだろうな。

ここで言う臭いセリフというのは、まず悪態の多用。あと相手を貶し馬鹿にする言葉を小粋で捻った表現にするという意味です。

いや、それ自体はいいんですよ? なんなら好きだし。だけど、この本に限っては、作者のセンスのきらめきをあまり感じなかった。

たぶんそういう言い回しは子どもに受けるんだろうなと思うのですが、わたしはちょっと鼻についたな……。

なんで気に入らなかったかというと、キャラクターに善性が感じられなかったから。厳密にいうと多少は感じましたが、十分ではなかった。

わたしが児童書に期待するのは、善に基づいていること。たとえ現実の世界がどんなに複雑で邪悪で不可解であっても、児童書の世界だけは善が基盤になっていてほしい。

せめて児童書という虚構の世界でだけは、善がすべてのはじまりでありおわりであってほしい。

このわたしの求める基準に照らすと、『アルテミス・ファウル』は十分な満足をわたしに与えてくれなかった。

もちろん話の筋としてはおもしろいし興味深く最後まで読んだ。だけど心から登場人物を応援し感情移入するまでには至らなかったな……。

それなりに登場人物たちは良い面もあったのに、どうしてちょっとひっかかるんだろ? 根は良いやつだけど、普段の言動が受け付けなかったのかな。

なんか心理的距離を感じるんだよなあ。優しさや弱さの開示があまりなかったからかな。

そしてちょっと惜しかったのが、アルテミスたちが生物爆弾から逃れた方法。あれじゃ説得力が弱いでしょ……。

アルテミスの天才性をあれだけ煽っておいて、その方法? 期待していた分、ちょっと肩透かしを食らった気分。

まあ、お母さんが眠っていることが伏線になっていたなら、そうするしかないけどさあ……。お母さん周りの伏線は、もっとわかりやすく提示してほしかったな。

ホリーがお母さんのうつ病と狂気を癒したけど、妖精のヒーリングは精神の病気にも効くのか、というのもモヤリポイントだった。

お母さんの場合、器質的な病気ではなく心理的なものだったんじゃないっけ? お父さんがいなくなったから寝込んでたんだよね? 心の傷を癒してしまったということ……?

ふうむ。なんかカタルシスがあまり感じられないなあ。きちんと筋は通っているし倫理観もそれなりにある。だけど感動はしないなあ。よくできた物語だな、と感心はするけど。

たぶんわたしが求めているのって「心から仲間を大切に思っていて仲間のためなら命を投げ出す」という行動や心理なんだと思う。

アルテミスはそういう点ではクールじゃないですか。バトラーが危険に陥ってもそれをカメラで見ているだけだし。

バトラーは妹を守るために命をかけたけど、当の妹が兄を大切に思っているようには見えない。ただのチャランポランに見える。

出番と口数が多いルートとフォーリーも、口ではホリーを心配してできることはするけど、軍人らしい冷酷さがあるし、ホリーのために規則を破ることはしない。

ホリーは一貫して正義感があるんだけど、なんかちょっと影薄くない? 作品のヒロインなのにあんまり印象がない……。印象に残っているのはルートとフォーリーの小気味いい掛け合いの方かも。

そう、この本で作者が楽しんで書いてるなあ筆がのってるなあと感じる箇所は、男同士の気安い会話だと思うんですよね。隊員同士の会話とかね。

なんか作者がアメコミ好き(とくにバットマン)というのが影響している気がするなあ。アメコミって基本的に男同士の物語で、女は添え物って感じじゃないですか。

この本にでてくる女性キャラも、上っ面をなぞっているだけというか、リアルじゃないというか……。

アルテミスはやりようによってはめちゃくちゃわたしに刺さりそうなのに、いまいちぶっ飛ばされなかった……。魅力で思いっきりぶん殴ってほしいのに……。

なんか妖精側が主人公感ありましたね。アルテミスにはダーク・ヒーローらしく突き抜けてほしかったのに、いまいち決定打に欠けている。

なにはともあれ、ちょっと惜しいところがちょこちょこある作品ではありますが、結局は個人の好みなのでね……。

続編読もうかな、どうしようかな。アルテミスの魅力をもっと見つけたいし、読むかな……。

#1030 恩田陸『私の家では何も起こらない』感想

三月中消失していた読書へのモチベーションが最近持ち直しているみたいなので、肩慣らしに読んだ本。

ささやかなボリュームの本だけど、しっかりと恩田陸らしさがある良い作品だった。

わたしの言う『恩田陸らしさ』とは、不穏な雰囲気、入り組んだ謎、結末の不安定さのことです笑。

恩田陸って『夜のピクニック』とか『蜜蜂と遠雷』みたいな青春もので規格外のヒットを飛ばすけど、わたしにとっての恩田陸はミステリーの人でありホラーの人です。

『私の家では何も起こらない』は恩田陸にしてはシンプルな筋立ての本だったけど、その素朴さがストーリーの風味を純粋に引き立てていて、久しぶりの読書をした身に染みた。

何も起こらないとタイトルにあるけど、あんなにたくさん事件が起こってるじゃないですか……と思ったけど、よく考えてみると違うな。

凄惨な歴史を持つ家に住む彼女だけど、その生活のなかでは、何も起こっていない。何かを起こすのは生きている者で、死者はただ静かにそこにいるだけだ。

まあ、ちょっと脅かしたり怖がらせたりはするけれど、人間が引き起こす騒動に比べたら幽霊たちは静かなものだ。

生きている間あれだけ信じられないことを仕出かした人間たちが死者になったとたん静かになるの、なんか救われるな。

生の苦しみが苛烈であればあるほど、死の安らぎは深いのかもしれない。

読んでいるあいだ何度もぞっと鳥肌が立つ良い本でした。満足。

2024/04/22

近所の本屋さんが潰れるらしい。

ほんとに悲しい。ここ数年、わたしが本をせっせと買うようになったのは、その本屋で買いたいからという理由だったのに……。

歴史のある本屋で、いろんな作家や漫画家が訪れた素敵な場所だった……。壁に漫画家のサインと絵が描いてあったり、サインが飾ってあったり。

温かみのある木の床と本棚で、こじんまりとしていて、ちょっとした展示スペースもあって。

その本屋を少しでも応援したいから、便利なAmazonを使わずに書店員さんに勇気を出して声をかけて注文していたのに……。

本を店頭で注文する行為、わたしにとってはけっこうストレスなんだけど、そのストレスを我慢してでも存続させたいし本を買うのが楽しい、そう思える本屋さんだった……。

わたしみたいに読みたい作家が限られている人間には、ふらりと入った本屋で思いがけず良作に出会うという機会はとても貴重だったんだ。

あああ……。もっと買ってあげられればよかった。

あと悲しいのが、わたしの一か月に一度の楽しみが潰えるということ。

今年の一月から〈こそあどの森シリーズ〉を一か月に一冊買うというお楽しみを自分にプレゼントしていたんです。

全十二巻のシリーズなので、ちょうど一年で全巻揃う♪と楽しみにしていたのに……。

その本屋で買うという行為が好きだったのに……。特別感があったのに……。

手塚治虫全集とか、そろそろ少しずつ買い揃えようかなと思っていたのにな……。

本棚を見てみると、その本屋さんで買った本が並んでいて、それを見るたびに甘やかな思い出がよみがえります。特に店頭でなにげなく出会った本は思い出深いし、それを目にした光景もはっきり覚えている。

こんな美しい思い出を与えてくれた本屋さんに感謝の念が尽きない……。

本棚には限りがあるし金銭的にも限度があるなかで自分なりに応援したつもりだけど、もっともっとたくさん本を買ってあげればよかった……。

はあ。悲しい……。

本当に悲しい。あの本屋さんが、わたしの人生からなくなってしまうなんて。もう思い出のなかでしかあの店内に入れないなんて。

最後のはなむけにたくさん本を注文しようと思います。

映画『ヴァチカンのエクソシスト』感想

ホラー界は新たなスターを求めている、ような気がする。死霊館シリーズのウォーレン夫妻に代わるような新しいスターを。

なんでそう思ったかというと、死霊館シリーズのひとつである『ラ・ヨローナ〜泣く女〜』に出てきた呪術師とこの『ヴァチカンのエクソシスト』の神父のキャラが似通っているから笑。

似通っているということは、キャラを立たせて人気を出すためにセオリーに従って作ったということなんじゃないかなと思っています。

まあ『ヴァチカンのエクソシスト』のガブリエーレ・アモルトは実在の人物だから、「キャラを作った」というより「その人物を選んだ」と言ったほうが正しいか。

『ラ・ヨローナ〜泣く女〜』の呪術師を観たときも思ったけど「あわよくば人気が出たらこの人物でシリーズを作りたいな」というのが感じられた。

二人の共通点は能天気で破天荒で茶目っ気があって憎めないところ。あと米国人ではない。なんていえばいいのかな。母国語が英語で白人をひとくくりにした言い方ってなんかなかったっけ……コーカソイドとも違うか……。

呪術師はたしかメキシコ人で、神父はイタリア人だったと思う。『ヴァチカンのエクソシスト』に関してはアメリカ人を主人公にしないところが最近の映画という感じがしますね。

まあヴァチカンだから当たり前にイタリアなんだけど……笑。でもイタリア人ではなくラッセル・クロウをわざわざキャスティングしているのは、やっぱりアメリカ映画だし人気が必要だからなんでしょうね。

映画はおもしろかったな。キャラがいいと感じた。アモルト神父もいいし、相棒のエスキベル神父もいい。

アモルトは気の良い不良おじさん神父で、エスキベルは真面目だけど弱さを持つ若い神父。二人の凸凹がうまく嚙み合ってる。エスキベルも助けられるだけじゃなくてアモルトを助けるシーンもあったし。

まあ言ってしまえば昔からよくある組み合わせですよね。ウィットに富み経験豊富な老刑事と熱血で反抗的な若い刑事みたいな凸凹コンビ。『セブン』とか『ラッシュアワー』みたいな笑。

やっぱり王道はおもしろいね。このコンビをもっと観たいと思わせられた。話の展開的にも続編が作れるようになっているし。

ホラーシーンもすごく良かったんだけど、ちょっとした謎解き要素とか二人の心理的交流の方が印象に残っているな。

ホラーの最高傑作だ! と騒ぎ立てるような作品ではないんだけど、キャラの良さが突出した良作だと思う。

続編作ってほしいな……。ヒットしてくれ……。

2024/04/21

映画『ファンタスティック・プラネット』感想

カルト的人気があるみたいなのでいつか観なくちゃなあと思っていた作品。実はあんまり気が進まなかったけど、やっと観ることができて達成感。

作品の評価としては……わたしにはちょっと高尚すぎたかな。わたしはどちらかというと世俗的な感覚の持ち主なので、この作品の面白さを十分享受することはできなかった。

最初観た時は最後まで通して観ることができなくて、数日経ったあとにやっと最後まで視聴できた。

わたしはたぶんフランス映画の感性と相性が悪い。やっぱり根がミーハーで教養がないから、フランス映画を理解し面白がるのはちょっと難しいと感じる。

それにね……やっぱり絵がね……。なかなか受け入れがたいというか。印象に残る唯一無二の絵で映画にはぴったりだと思うんだけど、好みの観点からいうとnot for meかな……。

だけどいまでもはっきりシーンを覚えているくらい記憶に残る絵だった。そこは本当にすごいと思う。

どうしてわたしにとってはあんまり刺さらないのかなと考えてみたのですが、映画全体を通してなんとなく寂寥感があるからかなあと思います。

見たことのない生物、植物、建物、世界が延々と続くじゃないですか。すべてが見慣れなくてどこにも拠り所がない。唯一見慣れた人間も小さくて卑小な存在として描かれている。

素晴らしい夢を見たけど、起きたらすべて忘れてしまったかのような空虚な気持ちになる。

そういう虚しさを忘れようと汲々としているのに、それを思い出させるこの映画が苦手なのかもしれない。

個人的にはあまり好んで観ないけれど、観る価値のある映画として人にオススメはすると思う。

2024/04/18

映画『オデッセイ』感想

やっぱり宇宙を扱った映画って面白い! 名作が多いですよね。なんでだろう。面白くない作品は日本に入ってこないだけかな? それとも製作費が高くなるから必然的に面白い脚本しか通らないんだろうか。それか有能監督が一度はやりたがるのが宇宙ものなのかも。

パッと思いつくだけでも『インターステラー』『ゼロ・グラビティ』『ファースト・マン』『2001年宇宙の旅』があるし……。あ、『スター・ウォーズ』シリーズも。

『オデッセイ』は一時期話題になってたので観たいなあと思ってはいたのですが、期待しすぎてなかなか視聴できなかったんですよね。期待が高すぎるとなかなか気軽に観れなくて……。

だってリドリー・スコットですよ? そりゃあ大いに期待してしまうじゃないですか。

それで気分が行き詰っているときに「本当に面白い作品が観たい」と思って選んだのがこの映画でした。

結果、塞いだ気分に見事に風穴を開けてくれました。すごいぞリドリー・スコット。期待を裏切らない男だ。

この映画、前編通して明るい気分が通底にありませんか? 絶望的な状況でもそれを必ず覆せるマンパワーをみんなが信じている。その信頼が映画を重苦しさから解放しているような気がする。

この明るさって科学や人に対する信頼もあるけど、主人公のワトニーの性格によるものも大きいのかも。原作小説がそんなかんじなのかなあ。

この映画の良さって「地に足がついている」感覚を得られるところかも。頭だけじゃなくて体も使う。その確かさが心に食い込んでくる。

ワトニーが植物学者としての専門知識を駆使して実際に畑を作ってしまうところとか、現在の地球=わたしたちの生活と地続きなんだろうなと思えた。近未来の空想の話じゃなくてね。

科学を近未来SFという魔法でごまかしていない、と感じられたんですよね。たぶん実際の科学技術からそう離れていないんだろうなと。

もちろん他の作品も綿密な取材に基づいて作られているんでしょうけど、表現したいものがそれぞれ違うじゃないですか。家族の絆がテーマだったり、宇宙への憧れがテーマだったり。

この映画の場合は、科学技術が進歩していったらこういう未来があるんだろうという未来への展望、科学というものへの期待、そのワクワクがテーマだと感じました。

この原作を書いた人って本当に科学が好きなんだろうな。科学に接するとワクワクして、いろんな想像が広がるんだろうな。

そのワクワクが伝播して科学音痴のわたしでも楽しいと感じました。

リドリー・スコットの堅実な映画作りも相まって、作品の魅力がさらに高まったと思う。

何歳になってもこういう未来への希望を描けるってすごいな。

風通しのいい、しっかりした作りの、とても気持ちがいい作品でした。

映画『劇場版 名探偵コナン 世紀末の魔術師』感想

最近は元気もないしブログを書くのも飽きてしまって、映画は観てるし本も読んではいるけど感想は書いてませんでした。

けどすこし元気になってきたので、感想を簡単に書こうかなと思います。けっこう前に観たので内容おぼろげになっています。あしからず。

この映画はブログに何度か出てきている某さんがオススメしてくれたものです。うふふ。

作品をオススメしてくれる人がいるって日々の生活を彩ってくれますね。自分ではたどり着けなかったであろう作品に出会うきっかけになってくれてありがたいです。

この作品でコナンをひさしぶりに観たんですけど、おもしろかったなあ。最後に観たのが小学生くらいの時だから、もう何年前になるんだろう……。

映画が大ヒットしているので興味はあったんですが、コナンって長年続いているから、途中から参入するのはけっこう敷居が高くて……。

でも今回頼もしいガイド=某さんがいるのでなんとか飛び込むことができました笑。

映画の公開は1999年だそうで、わたしは90年代のアニメの質感が大好きなので僥倖でした。あのちょっとザラっとしている手書きの質感が好きなんです。特に発光の表現が大好き。やわらかくて懐かしい。

そうだな、なんかノスタルジーポイントが付加されてさらにおもしろいと感じた。

テンポも今の感覚からするとちょっと遅いんだけど、そこがまたいいんですよね。ノスタルジーポイント加点です。

今夏に公開される映画が怪盗キッドと服部くんの映画だそうで、その関係でキッドや服部くんの映画がネットフリックスでいくつかやっていたみたいです。

怪盗キッドとか小学生のときにハマってたら本当に沼だっただろうなあ……。惜しいことをした……。小さい時からちゃんとコナンを観ておくんだった……。

改めて観てみるとコナンってよくできてるなあと思ったのが、あれって探偵ものに冒険活劇が合わさってそこにキャラ萌えも加わるというエンタメの粋が複合されたものなんですね。

シャーロック・ホームズや江戸川乱歩の系譜を正統に継いでいながら、新しいものを見せ続ける。これってすごいことだなあと思います。

オススメしてくれた某さんに感謝です。コナンの魅力に気づかないまま過ごすところだった……。

ジェーン・オースティン『いつか晴れた日に』感想

やっと読み終わったー……。時間かかったなあ。 ジェーン・オースティンの作品は『 高慢と偏見 』と『 エマ 』しか読んでなくて、その二つがとてもおもしろかったから『 いつか晴れた日に 』を読んだんだけど。 なんというか、先述の二作品が作家として成熟した時期に書かれたものなんだろうな...