2024/09/19

ジェーン・オースティン『いつか晴れた日に』感想

やっと読み終わったー……。時間かかったなあ。

ジェーン・オースティンの作品は『高慢と偏見』と『エマ』しか読んでなくて、その二つがとてもおもしろかったから『いつか晴れた日に』を読んだんだけど。

なんというか、先述の二作品が作家として成熟した時期に書かれたものなんだろうなあというのがわかった。訳者あとがきでも、『Sense and Sensibility』は実質的に処女作にあたるとのこと。内容も文章も物語の力も、その類まれなる才能の萌芽は感じるものの、『高慢と偏見』のような高みにはまだ至っていないかも……。

わたしが読んだのがキネマ旬報社から出ている翻訳で、おそらく映画に関連して出版された書籍だと思う。ずいぶん昔に『いつか晴れた日に』の映画は観ているんだけど、内容をぜんっぜん覚えていない……。

というか、どうしてタイトルを『いつか晴れた日に』にしたんだろう……?『分別と多感』のほうがかっこよくない?『高慢と偏見』だってタイトルを変えたら途端に話題になったんだから、オースティン作品を映画化するならタイトルの重要性を理解していそうなものだけど。

そもそも『Sense and Sensibility』がエリナとマリアンのことなんだから、タイトルが二人を象徴するものであったほうがいいじゃん。なぜ『いつか晴れた日に』にしたんだ。物語の内容とも関係がないし。なんかよくわからないセンスだな。

オースティン作品でなにが楽しみかって、主人公が誰と結婚するかということですが……。わたしは……エリナとブランドン大佐に結婚してほしかった……っ。だって! エドワードはあのルーシィなんかと婚約してそれを解消できないようなヤワな男じゃないですか!

エドワードの優柔不断さのせいでエリナがどれだけ苦しんだか考えると、エリナがエドワードを愛していようとエドワードにエリナを任せたいと思えないよ。 

エリナのそばにいてずっと励まし同時に励まされていたのはブランドン大佐だし……。そもそも、いくら昔の恋人を思い出させるからって感情的なマリアンを好きになるなんて、ブランドン大佐もよくわからないよ、エリナのほうが絶対に気性が合ってるじゃん。

ちょっとなあ。結末にあまりカタルシスを感じることができなかった。あと、途中のくだりが長い長い……。エリナとマリアンがロンドン滞在中はやっとおもしろくなったけど、正直そこにいくまでは読むのに苦労しました……。

『高慢と偏見』も長いのに、まったくそれが苦にならなかったどころかぐいぐいひっぱられてすごいスピードで読み進めていったことを考えると、『Sense and Sensibility』はやっぱりストーリーが読者をひっぱる力が弱いのではないかな。

いやでも、恋愛小説をまったく読まないわたしがわりと楽しめたのだから、佳作といえよう……。というか、比較対象が『高慢と偏見』だから、分が悪すぎるというのもあるよね笑。『高慢と偏見』を超える恋愛小説はもうないのかもしれない……。 

というわけで、期待が非常に高かった故に、ちょっと残念……。これでへこたれずに他の作品を読んでみよう。絶対にこの小説よりは完成度が高いはず。

2024/09/12

映画『バビロン』感想

うひゃあこれ、金かかってんなあ……。そして制作費を回収できなかったのも頷ける。これは……これは駄目でしょう……。

監督はデイミアン・チャゼルか。だから金を引っぱってこれたんだろうな、この過激な内容で……。まさに野心作だね。映画の枠を打ち破りたい、映画が大好きだ!! って気持ちはちゃんと伝わった。

オープニングの怒涛の映像には圧倒されたんだけどなあ。後半もなかなか集中力を保てたんだけど。でも。でも。長いって……。さすがに三時間は長い。申し訳ないけど、二日に分けて観させてもらいました。

この映画を映画館で観た猛者に感想聞いてみたいな。上流階級のパーティにネリーが出席するシーンなんて恐ろしく退屈で観ていられなかった。もちろんそれはハイソサエティのくだらなさを強調するために意図してつまらなくしていたんだろうけど。ふふ、あのものすごい嘔吐噴射はびっくりしたね。

三時間かあ……。おもしろかったけど、ぶっ続けで観ることはできなかったな。残念。いやはや、疲れるんだよね、この映画。半分褒め言葉です。台詞も多いし情報も多いし緊張もするしで、体力のないわたしには三時間耐えられなかった。

後半はものすごい緊張の連続でしたね。たとえばコンラッドがパーティでフェイと話したあと、階段を上がってボーイに金を渡したときからなんとなく不穏な空気を感じて、廊下を上機嫌で歩くコンラッドに「まさか……」と嫌な予感が増していって、本当に自殺したのはすごかった。

上機嫌で歩くコンラッドの背中を映しているだけなのに、これから自殺することを観客に伝えることができるのすごいですよね。そっか、その前のフェイと話すコンラッドの表情を丁寧に映していたときから、ほのめかしは始まっていたんだ。

あとひとつ、背中で悲しい運命を予感させててすごいなと思ったシーンは、メキシコに逃亡するためにマニーが仲間を呼びに行ったとき、車で待っていたネリーが小さく踊りながら暗闇に消えていくシーン。あそこはいつネリーが殺されるのか戦々恐々としていた。結局、彼女はそのまま行方不明になって後にオーバードーズで死んだわけだけど……。

ネリー……。彼女に嫌気がさして、最後まで通して観れなかったところがある。彼女がもう少し許せるキャラクターだったら、不快感が少なかったのに。乱暴でヤク中で自己中で破壊的な彼女を好きになることができなかった……。

しかし、この映画の嵐のような怒涛の展開はネリーの破天荒さが必要だったわけで。仕方ないよね。マーゴット・ロビー、演じるの大変だっただろうな。彼女はよくやったよ。

なんだか、この映画観たら毎日仕事いってセコセコ働いてるのが馬鹿らしく思えてきちゃいました。日々の生活も放棄したくなる、それくらい力のある映画だと思う。前半観ただけでめっちゃくちゃ疲れたってのもあるのですが。

疲れたし、ネリーも不快だけど、この映画のことを嫌いになることはできない……。だって、冒頭にも書いたけど映画をどうにかしたい、って思いを感じるし、実際にこの映画でどうにかしようと試行錯誤しているし、それは映画を愛しているからだってのがわかるから。

デイミアン・チャゼルにはこれからもいろんな作品を撮ってほしいな。この『バビロン』の興行的失敗に負けずに……。

2024/09/10

『日本怪奇小説傑作集1』感想

夏真っ盛りのころ、図書館の一角でホラー小説特集をやっていたので、借りてチマチマと隙間時間に読んでいた『日本怪奇小説傑作集1』、初秋になってやっと読み終わりました。

おもしろかったな……。けっこうぞっとする話もあれば、拍子抜けの話もありましたが、それがまたホラー小説の妙といいますか、そういうものを感じてよかった。そのリアルな肩透かし感が本当にあったことのように思えて、それがまたいいんですよね。

小泉八雲にはじまり、泉鏡花、夏目漱石、森鴎外、谷崎潤一郎、芥川龍之介、江戸川乱歩、川端康成などなど総勢十七名の小説家の作品が載っている豪華なアンソロジー。

いや、小説家ってすごいすごいとは思っていたけど、ホラーを書かせるとそのすごさが身に染みてわかるね。だってさ、夏目漱石の作品なんて三ページしかないのに、きっちりぞーっとしましたもん。すごかったなあ。

このアンソロジー、有名作家が名を連ねているんだけど、意外なことに一番印象に残っているのはそういう錚々たる小説家の作品じゃなくて、寡聞にして存じ上げていなかった大泉黒石の『黄夫人の手』だった。

この作品、読みにくいというわけじゃないんだけどなぜか手こずって、読み終えるのに時間がかかったからよく覚えているんだと思う。他の作品と比べると量も多いし。話の内容としてはそんなに怖くはなかったんだけど、情景が脳にこびりついている。

ある友人がきっかけで中国人社会に迷い込んだ少年が不気味な体験をするという話だったんだけど。うーん、感心するほど小説の細部を覚えているなあ。大泉黒石か……。他の作品も読んでみよう。

他に印象に残ったのは村山槐多『悪魔の舌』、岡本綺堂『木曾の旅人』、大佛次郎の『銀簪』。いままで読んだことのない作家の作品がおもしろいと感じた。

このアンソロジーは全三巻で構成されているらしく……。しかも、1902年から1993年にかけての90年間にわたる作品が各巻ほぼ30年ごとに配分されているとのこと。驚くべきことに、意図してそうなったわけではなくて、これぞという作品を集めていったら自然とそうなったらしいです。すごいですね。

夏は怪談でしょ、と思って読み始めた本ですが、秋の怪談もオツかもしれませんね。次巻があったら借りて読んでみよう。

映画『フリー・ガイ』感想

ほえー、おもしろかった。わりと有名だしおもしろいんだろうなーとは思ってたんですが、食指が動かなくて観てなかった。

なぜ食指が動かなかったのか、なんとなくわかる。この映画……欠点がなさすぎる。ど真ん中でおもしろいから、感想の抱きようがない。

いや、今はうつっぽくて心の働きが弱まっているから、感想が出てこないのかな。ちょっとそこらへんはわからないんだけど。

ライアン・レイノルズをはじめとした俳優陣はいい演技してるし、話の筋もおもしろいし、観終わったあともスッキリする。まじでひっかかりがない……。

他のゲーム作品からひっぱってきたネタがあるんだろうけど、わたしはゲームに疎いのでわからなかった……。残念。

クリス・エヴァンスが出てきたときはお得な気分になった。いい子ぶっていないクリス・エヴァンス、いいよね……。Sワード使ってた……うふふ……。

思いのほか脳に負荷がかかったのが、悪役アントワンの話し方。あのアクセントはなんだ? めちゃくちゃストレスだった。うっ、思い出しても不快な気分がよみがえってくる……。

この映画はディズニー+で観たんですが、子どもが観ても安心な映画ですね。文句なし、お手本的のようないい映画。

ダ・ヴィンチ・恐山さんがラジオで「傘の倒れ方はいくつもあるが、傘が立っている状態はひとつしかない」みたいなことを言っていました。たしか作品を褒めるときの話だったような気がする。

まさしくこの作品は「傘が立っている状態」。そういうときって、特に言及することないですね。

でも、同じく完璧におもしろくて似たような作品で『レディ・プレイヤー1』がありますが、あれは大っっっつ好きなんですよね。めちゃくちゃ大興奮したし大号泣したし元ネタがわからなくてもワクワクした。ゲームぜんぜんしないし興味もないのに。

レディ・プレイヤー1』と『フリー・ガイ』、わたしのなかで何が違ったんだろう。

まあ好みの問題か……。わたしの個人的な好みとして、監督の自我や思い入れや過去が作品に色濃く投影されているのがわかる作品が好きなんだよな。創作者のオブセッションが見たくて作品を見ているところがあるから。

もちろんプロフェッショナルの熟練された超絶技巧や作りこまれた世界観も楽しむんだけど、それだけじゃ物足りなく思っちゃうんだよね……。一個人の凝り固まったトラウマが作品に投影 and/or 昇華されるのが見たいのよ……。

でも、自分にとって思い入れの深い作品を受けとめる元気がないとき、『フリー・ガイ』みたいな作品にはいつも助けられる。コメディありアクションあり感動ありの完璧優良映画しか観れない時だってありますわな……。ありがたやありがたや。

自分的に一番好きなシーン、なぜかコーヒーショップのシーンなんだよな……。あそこ好き。元気がないときにまた観よう。

2024/09/07

映画『デリヴァランス -悪霊の家-』感想

疑問なんですけど、何故にネットフリックス制作のホラー映画はすべて似たような質感になるのかな?

均質なおもしろさ。観れないほどじゃないけど、あえて観る価値はない。観ているあいだはそれなりにおもしろいけど、観終わったあと何も残らない。平均点は確実に取るけれど高得点ではない。けっこうな有名俳優が出演していてもそうなんだよな。

ネットフリックスが作ったホラー映画はわりと観ているけど、どれもそんなかんじ。なぜそうなってしまうんだろう。制作工程にネットフリックス特有の特殊な事情があるのかな。制作期間が短いから世界観の作り込みができないとか……?

というわけで、暇つぶしにはなったけれど、すぐに忘れてしまいそうな映画でした。

でも、実話ベースとのことで、それはおもしろかったかな……。心霊現象なのか、母親の凶行なのかわからないようになっているところがおもしろかった。

内部から見たら狂った母親の虐待が、もしかしたら外から見たら心霊現象に見えるかもしれないよね。その逆もしかり。この映画のように、母親の虐待かと思ったら家の呪いだったというような。

子どもを壁に叩きつけたところとか、どっちだったんだろうね。その現場にいる者しか真実はわからない。あれは心霊現象だったかのような撮り方だったけど、事実は母親が酒に酔ってやったことかもしれないし。

子どもたちの奇行も虐待によるストレスなんじゃないかとわたしは思っていた。自分の糞を食ったり、不謹慎なことで笑ったり。次女の生理とか、母親の世話が足りていない証左だと思う。

実話のもとになった事件では、実際に子どもが壁を後ろ向きでのぼったらしい。これに関しては、虐待のストレスで片付けるには不可解だけど……。

途中で女牧師(牧師だよね?)の撮り方がわざと怪しく映るように撮ってたけど、思わせぶりな撮り方はネットフリックス映画の十八番なんだな。後半で別に怪しくなかったってわかるんだけど、わざと怪しげに撮っている。と思う。『終わらない終末』でもそうだった。

まあ、ネットフリックスが作る映画としては、こういうのが正解なんだろうな。休日にポップコーンでも食べながら観るのに最適な映画を量産する効率的なスタイルが確立しているんだろう。その恩恵に与っているんだから、文句は言えないよな。たしかに暇つぶしにはなるし。

毒にも薬にもならない映画が観たいときもありますわな……。今はそんな気分なので、わたしにとってはけっこう良い映画でした。暇つぶしになってくれてありがとう……。これからもホラー映画をたくさん作ってくれ。

2024/09/03

映画『エコール』感想

ずいぶん昔、季刊Sという雑誌を購読していたんです。イラストや映画、漫画なんかの「表現の総合誌」で、イラストレーターさんの作品が載っていたり監督や漫画家のインタビューがあったりする雑誌です。

2006年10月号にこの『エコール』の監督のインタビューが載っていたんです。映画の宣伝で人形作家さんとコラボしていて、写真もいっしょに載っていて。

季刊Sで覚えている記事といったら、この『エコール』くらいかもしれない。それくらいその写真に引きつけられたんですよね。ほんの数ページのインタビューだったんですが、写真で見た映画のシーンの情景がすごく良くて。

あれから18年……。満を持して観ました。おもしろかった。いや、意外なほどおもしろかった。

ベルギー、フランス、イギリス合作のこの映画、わたしが普段観ているアメリカ映画とはまったく違っていて、すごく新鮮だった。

派手なことは何も起こらない。事件もない。ただただ、静かに淡々と少女たちが画面に映される。

冷静になって「わたしは何を見せられているんだ?」となりそうなものなのに、あと一歩のバランスでそうならない。

とてもつまらなく感じそうな内容なのに、休憩も挟まず全編通して観ることができた。派手なアクション中でもつまらなければ映画を中断してショート動画をダラダラ観ることもたくさんあるわたしなのに……。

この映画を観終わった瞬間、まるで卵みたいな映画だな、と思いました。卵の殻の中をひとまわりしたような。光に透ける卵のなかで、漂いながら殻の中の世界を見ている。殻の外の光を垣間見ても、それはまた元の世界に戻っていく。

いや、よく考えてみると、卵というより羊水の中にいるような……。子宮の中でまどろんでいるような、そんな印象を受けた。

この映画の見所といったら、ひそやかなほのめかしを少し見せて、あとは少女たちが不器用に跳んだり跳ねたりしているだけなんです。なのになぜ、こんなに引きつけられるんだろう……。

不思議な映画だ。暗い雰囲気でもない、でも明るくもない、少女たちの素のままの姿をじっと目を凝らして映している、それだけの映画なのに、どうしてこんなに心に残るんだろう。

少女たちは饒舌ではない。囁くように声を交わし合い、光の中で遊び、教室でバレエのレッスンを受ける。たまに脱走者が出るけれど、ひそやかに葬られ、忘れ去られる。

ふたりの謎めいた女性、エヴァとエディスには秘密の香りが濃密に漂っている。いくらでも物語を想像できそうな余地がある。でもそれをつまびらかにするでもない。

ともすると、この映画を観ていた究極の目的は、スラリと伸びたビアンカの足を見るためだったのかもしれないと思ったりもする。少女たちが微笑み合い、水遊びをしている姿を見られただけで、満足感が胸に去来する。

少女たちの一瞬一瞬の姿を見ていると、原題の『イノセンス』という言葉が何度も頭に浮かぶ。イノセンスを失ったであろうエヴァとエディスとの対比で、それはさらに際立つ。

この映画についてなら、いくらでも語れそうな気がする。足を引きずるエディス、いつも悲しげなエヴァ、使用人の老婆たち。舞台を観劇に来ている客、外の世界、そもそもあの学校はなんなのか……。

でも、そういう謎よりも、わたしはブランコから落ちたビアンカの姿がずっとずっと心に残っている。

色とりどりのリボン、白い制服、三つ編みの少女たちの姿は、わたしの心の原風景のひとつになった。

いやはや、驚くほどいい映画だった……。

ジェーン・オースティン『いつか晴れた日に』感想

やっと読み終わったー……。時間かかったなあ。 ジェーン・オースティンの作品は『 高慢と偏見 』と『 エマ 』しか読んでなくて、その二つがとてもおもしろかったから『 いつか晴れた日に 』を読んだんだけど。 なんというか、先述の二作品が作家として成熟した時期に書かれたものなんだろうな...